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名古屋地方裁判所 平成7年(ワ)914号 判決

原告

池田二郎こと黄大根

被告

吉田昭雄

主文

一  被告は、原告に対し、金一五三万〇八一五円並びに内金一二六万〇九九〇円に対する平成三年一〇月三日から及び内金二六万九八二五円に対する平成五年八月一日から各支払済みまでいずれも年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金五七九四万三八七四円並びに内金一四五九万二二〇〇円に対する平成三年一〇月三日から及び内金四三三五万一六七四円に対する平成五年八月一日から各支払済みまでいずれも年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告と被告との間の交通事故について、原告が被告に対して、民法七〇九条に基づいて、損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実又は括弧内の証拠等により容易に認められる事実

1  本件事故

平成三年一〇月二日午後一〇時四五分ころ、名古屋市中川区山王一丁目九番三四号先の信号機による交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、南方(ナゴヤ球場前交差点方面)から東方(南北橋方面)に向かって右折進行しようとした被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)と、北方(六反交差点方面)から南方(ナゴヤ球場駅前交差点方面)に向かって直進しようとした原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)とが、衝突した(争いがない。又は、甲一号証、二号証、原告本人)。

2  被告の責任

被告は、被告車を運転して本件交差点を右折進行しようとしていたのであるから、前方を十分注視し、対向して直進してくる車両の進行を妨害しないようにすべき注意義務があったのに、それを怠った(争いがない。)。

3  既払金

被告は、原告に対し、本件事故による損害の賠償として、合計一七一万〇一七五円を支払った(甲七号証、八号証、一九号証の一から三まで、弁論の全趣旨)。

第三争点

一  原告の受傷と、受けた治療、後遺障害

(原告の主張)

1 原告は、本件事故により、全身打撲、頸椎捻挫、頸椎脊椎管狭窄症、椎間板ヘルニアの傷害を負った。

2 原告は、右傷害の治療のため、次のとおり治療を受けた。

(一) 平成三年一〇月二日から同月七日まで

保健衛生大学坂文種報德會病院で通院治療(実通院日数二日)

(二) 平成三年一〇月八日から平成四年四月三〇日まで

宮地ハリ治療院で通院治療(実通院日数一四〇日)

(三) 平成四年七月二日から同年九月一二日まで

名古屋大学医学部附属病院で入院治療(七三日間)

(四) 同年七月一日から平成七年一月一八日まで

同病院で通院治療(実通院日数一三日)

3 原告には、右治療にもかかわらず、脊柱(頸椎)の運動障害及び頭痛等の神経症状等の後遺症が残った(平成五年七月三一日症状固定)。

二  原告の損害額

(原告の主張)

1 治療費 一三〇万六四五〇円(藤田保健衛生大学坂文種報德會病院分四万八七七〇円(甲八号証)、宮地ハリ治療院分七九万二四〇〇円、名古屋大学医学部附属病院未払分四六万五二八〇円(甲一九号証の三)の合計)

2 入院雑費 一〇万二二〇〇円(一日あたり一四〇〇円の七三日間分)

3 休業損害 一一九九万円

原告は、本件事故当時、株式会社長田清掃に勤務して一か月あたり五四万五〇〇〇円の収入を得ていたところ、本件事故のため平成三年一〇月から平成五年七月までの二二か月間就労不能であった。

4 逸失利益 三五三五万一六七四円

原告は症状固定当時(平成五年七月ころ)四二歳であるから、同年齢の男子労働者の平均賃金月額四一万〇六〇〇円(年額五〇四万七二〇〇円)を基礎収入として、二五年間就労可能(新ホフマン係数一五・九四四)、労働能力喪失率四五パーセントにより算出。

5 入通院慰謝料 二五〇万円

6 後遺症慰謝料 八〇〇万円

三  過失相殺

第四争点に対する判断

一  争点一について

1  証拠(甲四号証、五号証、八号証、一二号証の一、二)によれば、原告が本件事故で全身打撲、頸部捻挫の傷害を負い、平成三年一〇月二日から同月七日までの間、藤田保健衛生大学坂文種報德會病院において通院治療を受けた(実通院日数二日)事実を認めることができる。

2  証拠(甲三号証、七号証)によれば、原告が平成三年一〇月八日から平成四年四月三〇日までの間に一四〇回宮地ハリ治療院に通院し、ハリ、SSP低周波、バイブレーター、マッサージなどの治療を受けた事実は認められる。

しかしながら、右治療が医師の指導に基づいて行われたことを認めるに足りる証拠はなく、医学的に有効性があるか否かも明らかではないから、右通院については、本件事故による原告の損害として本件事故との間に相当因果関係があるとは認められない。

3  証拠(甲一〇号証、一二号証の一、二、一三号証、一四号証、鑑定嘱託の結果)によれば、原告が本件事故で頸椎椎間板ヘルニア(第3/4間及び第5/6間)の傷害を負い、名古屋大学医学部附属病院において、平成七月二日から同年九月一二日まで入院治療(七三日間)、同年七月一日から症状固定した平成五年七月ころまで通院治療(実通院日数一〇日)を受けた事実を認めることができる。なお、原告は、右症状固定後も平成七年一月一八日まで三回同病院に通院しているが、右通院が必要かつ有効なものであったことを認めるに足りる証拠はない。

4  原告の頸椎脊椎管狭窄症については、本件事故との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。

5  証拠(甲一〇号証、一二号証の一、二、一三号証、一四号証、鑑定嘱託の結果)によれば、原告には本件事故の結果右認定にかかる治療を受けたにもかかわらず頸椎前方固定(第3/4間及び第5/6間)による運動制限の後遺障害が残った事実が認められる。

もっとも、右証拠によれば、原告は、本件事故以前に、症状はなかったものの、第2/3、3/4頸椎後方骨棘並びに第三及び第五頸椎椎体前方骨棘が加齢のために形成されており、椎間板ヘルニアの準備状態にあった事実、原告の頸椎の可動域は、平成六年一〇月二一日時点では前屈四五度・後屈三〇度・回旋四五度・側屈四五度・平成七年一月一八日時点では前屈三五度・後屈四〇度・回旋四五度(左右共)、平成九年五月九日時点では前屈二〇度・後屈二〇度・回旋四〇度・右側屈二〇度・左側屈零度である事実が認められる。

後遺障害の有無及びその程度についての判断は症状固定時について判断すべきであるところ、右各事実によれば、症状固定時(平成五年七月ころ)における原告の頸椎の可動域は右平成六年一〇月二一日時点よりもさらに大きなものであったことを推認することができる。そうすると、症状固定時における原告の頸椎の可動域は、正常な場合(前屈六〇度・後屈五〇度・回旋七〇度・側屈五〇度(左右共)に比べて約二割制限されているにすぎない。したがって、原告の前記後遺障害については、脊柱の変形障害として自賠責後遺障害等級一一級に該当すると評価するのが相当である。

二  争点二について

1  治療費

藤田保健衛生大学坂文種報德會病院分四万八七七〇円(甲八号証)及び平成四年七月二日から同年九月二日までの名古屋大学医学部附属病院における入院治療分四六万五二八〇円(甲一九号証の三)の合計五一万四〇五〇円を原告の損害として認めることができる。

2  入院雑費

入院雑費は一日あたり一二〇〇円が相当であるから、七三日間分の合計八万七六〇〇円を原告の損害として認めることができる。

3  休業損害

(一) 証拠(甲一一号証、一五号証、原告本人)中には、原告に本件事故による休業損害が発生したとする原告の主張(原告は、就労不能期間中に株式会社長田清掃から受け取った金員について、同社からの借入金であると主張する。)に沿う部分がないではない。

(二) しかしながら、証拠(甲一五号証、一六号証、一八号証、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、株式会社長田清掃の取締役であり、役員報酬として平成三年度は五七九万円の支払いを受けたこと、本件事故により勤務することができなかった期間についても右報酬は支払われていたこと、右会社の経理上も原告に対する右支払いは役員報酬として処理されていたこと、右会社はいわゆる同族会社であって同社の代表者は原告の兄であることの各事実が認められる。

右事実に照らすと、前記原告の主張に沿う部分は不自然であって、これを容易に信用することはできず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠もない。

4  逸失利益

原告は、前記認定のとおり会社役員であり、休業期間中も役員報酬として本件事故以前と変わらない収入を得ていた事実に照らすと、原告に労務提供の対価としての収入があるとは認められない。

したがって、原告について後遺障害による逸失利益があるとも認められない。

5  入通院慰謝料

原告の前記本件事故との間に相当因果関係の認められる入通院(平成三年一〇月二日から平成五年七月までの保健衛生大学坂文種報德會病院分又は名古屋大学医学部附属病院での治療分(入院七三日間、通院実日数一二日))に対する慰謝料としては、一五〇万円が相当である。

6  後遺症慰謝料

原告の前記後遺障害に対する慰謝料としては三三〇万円が相当である。

7  よって、原告の本件事件による損害の額は、合計五四〇万一六五〇円である。

三  争点三について

1  証拠(甲一号証、二号証、一二号証の一、二、原告本人)によれば、前記争いのない事実等に加えて以下の事実が認められる。

本件交差点は、車道の幅員が片側約一〇・〇メートルで幅約一・五メートルの中央分離帯がある南北に延びる片側三車線の道路(以下「本件道路」という。)と、車道の幅員が約九・〇メートルの東西に延びる道路とが交差する、信号機により交通整理が行われている交差点である。本件道路については、最高速度が五〇キロメートル毎時に制限されている。

被告は、被告車を運転して本件道路の北向き第三車線を走行し、本件交差点の手前約四一・二メートルの地点で対面する青色投下の信号を確認して右折の合図を出しながら減速した。そして、本件交差点に約三・七メートル進入した地点で一時停止したものの、対向車線の交通の安全を十分確認することなく漫然と右折進行したことから約八・五メートル進行した地点で初めて原告車を発見したが、間もなく原告車と衝突し本件事故を発生させた。

原告は、原告車を運転して本件道路の南向き第二車線を時速約六〇キロメートルの速度で走行していたところ、本件交差点の手前約一九・三メートルの地点で前方約三六・五メートルの地点に本件交差点を右折進行しようとする被告車を発見した。原告がそのまま直進を続けたところ、本件交差点の手前約四・三メートルの地点で、右折を続ける被告車に衝突の危険を感じ、ハンドルを左に切ると共に急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車に衝突して本件事故が発生した。

2  証拠(原告本人)中には、原告車の走行速度について右1に認定した事実に反する部分もあるが、藤田保健衛生大学坂文種報德會病院の診療録(甲一二号証の一、二)中の本件事故の際の原告の速度に関する記載に照らすと、右証拠はことさら自己に有利に述べようとするものであって不自然で信用することができない。

3  右のような原告の損害については、公平の観点からその過失を斟酌するのが相当であり、その割合は四〇パーセントとするのが相当である。

原告の損害額は前記のとおり五四〇万一六五〇円であり、右金額から右過失割合に従い四〇パーセントを減額すると、被告が賠償すべき原告の損害額は、三二四万〇九九〇円となる。

四  結論

右被告が賠償すべき原告の損害額から前記既払金を損益相殺すると、一五三万〇八一五円となる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊原信次)

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